薬学教育と実務実習

薬学教育モデル・コアカリキュラムが改訂される
〜 学習成果基盤型教育(Outcome-based Education)を指向 〜

薬局実務実習委員会 吉藤 茂行
(石川県薬剤師研修センター)

 平成26年6月1日に日本薬剤師会(東京)で、「平成26年度日本薬剤師会薬局実務実習担当者全国会議〜薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂について〜」が実施された。その報告を兼ね、平成25年12月25日に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムの概要についてお話しします。

平成30年以降を見据えた改訂

 平成18年より始まった薬学教育6年制がようやく定着してきたが、その教育課程であるコアカリキュラムは平成16年以前に決定されたもので、当時はまず4年制から6年制への移行という大きな制度改革の実施に重点が置かれ、カリキュラムの内容に従来型教育の踏襲が見られた。それから10年を経過したが、この間に本格的な薬学教育を模索し立案する動きが見られ、昨年12月25日にコアカリキュラムが改訂された。
 今回は、現在の医療に対応するカリキュラムではなく、改訂実施後の新しい卒業生が世に出る平成33年以降の我が国の社会予測や、医薬品をはじめとする薬学や周辺医療における国の将来計画など、薬剤師の立ち位置を見定めた未来志向型のカリキュラムを目指したものといわれる。

本格的な薬剤師教育

 改訂カリキュラムの構成は、薬剤師養成を第一義とする新しい教育理論に基づいている。現在のカリキュラムも施行時点では薬剤師教育を指向したといわれていたが、1949年の新制大学の 設置から長期に続いた4年制薬学のしがらみを抜け出ることはできず、教養科目など基礎教育から積み上げ、応用科目として薬剤師教育を実施するといった“基礎から応用へ”の理論構成である。
 今回の改訂はこれとは逆に、先ず“これからの薬剤師はどうあるべきか(薬剤師の基本的資質)”を決定し,それに直接必要な教育科目を決めることからはじめ、ついでこの教育を支える二次教育は何かを考えて決定する。さらに二次教育を支えるための基礎教育は何かを考え決定するというプロセスを経て作り上げられたもので、今までの言い方をすれば、“応用から基礎へ”の方向でカリキュラムが編成された。これに基づく教育を学習成果基盤型教育(Outcome-based Education)という。よってこの図式のトップに位置するのは薬剤師であり、これからの6年制教育はまさしく“薬剤師教育”といえる。初学年を担当する教員をはじめ、すべての薬学教員は常に卒業時目標である薬剤師を見据えながら教え、学生も6年間の学習成果として薬剤師になる意志を遂行する。なお、この教育方法は既に我が国の医学教育で実施されている。



学習成果基盤型教育

薬剤師に求められる基本的資質

  • ☆ 薬剤師としての心構え
  • ☆ 患者・生活者本位の視点
  • ☆ コミュニケーション能力
  • ☆ チーム医療への参画
  • ☆ 基礎的な科学力
  • ☆ 薬物療法における実践的能力
  • ☆ 地域の保健・医療における実践的能力
  • ☆ 研究能力
  • ☆ 自己研鑽
  • ☆ 教育能力

スリム化されたカリキュラム

 現行カリキュラムによる教育は、従来の4年制で行われていた講座ごとの講義の連結で積み上げられている傾向があり、実際に多くの大学は講座と講義を一致させている。そのため、教育の流れとして重複や欠落があってスムーズでないといわれている。このことは、薬学教育と実務実習教育,さらには病院実習と薬局実習を別個のカリキュラムにしたことにも表れている。
 今回の改訂ではカリキュラムを一本化し、学習成果基盤型教育に基づいて上流(薬剤師)から下流(薬学基礎)へとスムーズな流れになるように途中域の教育体系を整理したため、スリム化している。それは個々の教育項目の到達目標であるSBOsの総数が1,504から1,068へと大幅に減少したことからわかる。
 カリキュラムがスリム化し学生の学習に余裕ができたことは望ましい方向であるが、“ゆとり教育”になったわけではない。文科省は、空いた時間を各大学の特色ある教育にあてることを要望している。大学には、下流域(薬学基礎)の幅を広げて豊かな人間性を育む科目を用意したり、薬剤師への専門性を高めたアドバンスト教育や卒論研究の充実を図ることが要求されている。

改定カリキュラム   現行カリキュラム
A 基礎事項 67 A 全学年を通して
ヒューマニズムについて学ぶ
38
B 薬学と社会 48 B イントロダクション 22
C 薬学基礎 368 C 薬学専門教育 1,113
D 衛生薬学 79    
E 医療薬学 317   D1 実務実習事前教育
D2 病院実務実習
D3 薬局実務実習
77
108
114
F 臨床薬学 176
G 薬学研究 13 E 卒業実習教育 32
合計SBOs 1,068   合計SBOs 1,504

実務実習教育の重要性

 学習成果基盤型教育の目標である薬剤師に必要な知識・技能・態度を実践的に身につける教育として実務実習教育の重要性がこれまで以上に強調されている。
 現在のカリキュラムは、薬学教育モデル・コアカリキュラムと実務実習モデル・コアカリキュラムが個々に作られており、教育構成の上からも実習教育は薬学教育に付随するものとされた感が否めない。
 新しいカリキュラムでの実務実習は、上記に述べたように薬剤師になるための直接的な教育としてとらえられており、統一されたカリキュラムの中の「F 臨床薬学」を与えられている。臨床薬学の内容は現在以上に体験型実習を指向しており、これまでの見学実習や座学による代替で済ましていたSBOsなどが、積極的に“体験する”と記述されている。
 さらに、我が国の将来を見据えた在宅医療をはじめ地域医療に積極的に取り組むことが要求されている。医療連携による他業種との共同意識の醸成も実習生が身につけるべきテーマとなっている。健康日本の方針から、実習生にセルフメディケーションの考えを理解させ、一般用医薬品の知識や取り扱い(顧客対応)をしっかり習熟させてしてほしいと薬局実務実習担当者全国会議で強く要請された。
 6月下旬に行われた医療薬学フォーラム2014(医療薬学会、東京)で、薬局薬剤師による臨床研究の重要性が話題にされた。「学生発表会(実習報告会)」などを通して、学生に研究し発表する力を培う指導をしている薬剤師も自ら臨床研究し、学会発表することが大切である。学生に、自分の“背中を見せる”ことこそ真の実習教育であろう。


今後のスケジュール
平成27年   現カリ2年次   改カリ1年次
28年   3年次   2年次
29年   4年次   3年次
30年   5年次(実習)   4年次
31年   6年次   5年次(実習)
32年   卒 業   6年次
33年       卒 業

おわりに

 改訂カリキュラムは平成27年4月から実施され、実務実習教育は平成31年度以降になる。県薬剤師会や受入薬局の指導薬剤師が直接携わるのは薬局実務実習であるが、私どもは改訂カリキュラムが意図する教育の流れを理解し、学生とともに“これからの薬剤師”を追い求めてゆかねばならない。

以 上

(本原稿は「県薬レポートNo 71」に記載したものを転記しました)