薬学教育と実務実習


いよいよ OBE−実務実習 が始まります

実務実習委員会委員 吉藤 茂行



はじめに

 来年(2019年)2月から平成27年入学の薬学生のOBE-薬局実務実習が開始されます。現在、薬剤師会(本会と病院薬剤師会)は、各大学と薬学教育協議会北陸地区調整機構との間で、来年度受け入れを希望している県内薬局・病院と実習予定学生のマッチング(振分け)を行っているところです。

OBE-実務実習

 最近、実務実習教育や指導者養成事業の題目に“OBE-”を付ける場合が多く見受けられる。これは平成27年度以降の薬学教育が従来と異なる新しい考え方による教育カリキュラム(“改訂モデル・コアカリキュラム”)に基づいて実施されており、これに準拠していることを示したり、新しい教育であることを印象付けるためである。
 “OBE”は、「学習成果基盤型教育(Outcome-based Education)」の略称であり、実務を伴う医学部や薬学部教育の基本となっている。それは、「修得すべき学科目・課題について、目標となる最終的な成果(アウトカム)を提示し、学習者がどこまで達成したかを総合的に評価しながら教育を進める。」ことである。ちなみに、最終の薬学部卒業時のアウトカムとして「薬剤師として求められる基本的な資質」が表-1のように示されている。

表-1

薬剤師として求められる基本的な資質

  1. 薬剤師としての心構え
    医療の担い手として、豊かな人間性と生命の尊厳について深い認識を持ち、薬剤師の義務及び法令を遵守するとともに、人命と健康な生活を守る使命感・責任感及び倫理観を有する。
  2. 患者・生活者本位の視点
    患者の人権を尊重し、患者及びその家族の秘密を守り、常に患者・生活者の立場に立って、これらの人々の安全と利益を最優先する。
  3. コミュニケーション能力
    患者・生活者、他職種から情報を適切に収集し、これらの人々に有益な情報を提供するためのコミュニケーション能力を有する。
  4. チーム医療への参画
    医療機関や地域における医療チームに積極的に参画し、相互の尊重のもとに薬剤師に求められる行動を適切にとる。
  5. 基礎的な科学力
    生体及び環境に対する医薬品・化学物質等の影響を理解するために必要な科学に関する基本的知識・技能・態度を有する。
  6. 薬物療法における実践的能力
    薬物療法を主体的に計画、実施、評価し、安全で有効な医薬品の使用を推進するために、医薬品を供給し、調剤、服薬指導、処方設計の提案等の薬学的管理を実践する能力を有する。
  7. 地域の保健・医療における実践的能力
    地域の保健、医療、福祉、介護及び行政等に参画・連携して、地域における人々の健康増進、公衆衛生の向上に貢献する能力を有する。
  8. 研究能力
    薬学・医療の進歩と改善に資するために、研究を遂行する意欲と問題発見・解決能力を有する。
  9. 自己研鑽
    薬学・医療の進歩に対応するために、医療と医薬品を巡る社会的動向を把握し、生涯にわたり自己研鑽を続ける意欲と態度を有する。
  10. 教育能力
    次世代を担う人材を育成する意欲と態度を有する。

F 薬学臨床

 実務実習教育は、一貫したOBE-カリキュラムの中で、「F 薬学臨床」に分類されている。ここでは、「患者・生活者本位の視点に立ち、薬剤師として病院や薬局などの臨床現場で活躍するために、薬物療法の実践と、チーム医療・地域保健医療への参画に必要な基本事項を修得する。」と定義され、表-2の中項目が提示されている。その各々にGIO(general instructional objective)、SBO(specific behavioral objective)が記載され、修得すべき目標が示されている。それらの習熟・達成がアウトカムになりうるものである。

F 薬学臨床の詳細


 この中で学生が学ぶべき代表的疾患は、下記の8疾患とされている。学生は、これらの疾患を持つ患者の薬物治療に継続的に広く関わり、知識・技能を修得することが要求されている。

学生が実習で学ぶ代表的8疾患
1 2 3 4 5 6 7 8
がん 高血圧 糖尿病 心疾患 脳血管障害 精神神経
疾患
免疫・
アレルギー
疾患
感染症

概略評価

 OBE-教育の定義における学修成績は、“学習者がどこまで達成したかを総合的に評価する”ことである。従来の1つひとつのSBOについて点数評価をしていたことに対し、“総合的に評価する”ことに変更された。いくつかのSBOsをまとめて1つの評価項目を作り、どの程度習熟したかを数段階のレベルで評価するものである。この方式を“概略評価”と称している。概略評価の方法は、4年次に実施される薬学生の実務適性試験である薬学共用試験OSCE(オスキー:客観的臨床能力試験)の成績評価にも取り入れられている。
 概略評価を行う実習項目は中項目の(1)薬学臨床の基礎、(2)処方せんに基づく調剤、及び(3)薬物療法の実践までである。何をどうまとめて評価項目を作るのかは、中央の連絡会議から「概略評価表」として“例示”されている。各大学は、例示を参考に独自に概略評価表を作成して実習施設に説明することにしている。薬局の実習指導者は、一定期間ごとに学生の実習内容を振り返り、時には学生と話し合って習熟度を十分見極めて評価することが望ましい。
 中項目の(4)チーム医療への貢献及び(5)地域の保健・医療・福祉への参画の2項目についての成績は、主として学生の実習日誌や作成したレポート等で評価する”実習記録評価“が推奨されている。

新しい実習形態

ア) 年間4期の実習日程
 OBE-実務実習を行うためには、一貫性のある実習スケジュールが必要であり、[事前実習](4年次)→[薬局実習]→[病院実習]の順で実習計画が組まれている。そのため学年を4期に分けた日程になっている。


新しい実習日程



イ) 実習施設は薬局と病院がセットになっている
 今回のガイドラインには、薬局と病院及び大学が密に連携し、実習内容の理解と学生評価の共有化を図りつつ効率的な実習教育を進めてゆくことが提唱されている。これまで別個に扱われていた薬局と病院の良好な関係が求められている。さらに、受入れ薬局や病院の中には、前に掲げた8疾患のすべてを取り扱っていない場合があり、学生が少しでも多くの疾患について継続的に学習する機会が得られるように、薬局と病院をマッチングさせる必要がある。受入れを希望する薬局・病院には事前にどの疾患を取り扱っているかをアンケート調査している。学生の施設配置に一段と工夫が必要である。

薬局指導者のためのテキスト

 改訂モデル・コアカリキュラムにおけるOBE-薬局実務実習の組立ては、日本薬剤師会(薬学教育委員会)がリードしている。日本薬剤師会は、毎年開催している「薬局実務実習担当者全国会議」や、地区ごとに開催される「薬局実務実習受入に関するブロック会議」等を通して、各薬剤師会に新しい実習内容を説明してきた。また、現行の薬局実習の中で、一部の薬局を募り、“トライアル実習”と称してOBE-方式の概略評価を試行した。
 このようないきさつから、石川県薬剤師会・実務実習委員会は、新しい実習の指導者テキストとして、日本薬剤師会編「薬局実務実習指導の手引き2018年版」を採用し、受入れ希望薬局等へ推奨することにした。
先日、この指導者テキストの説明会を開催(2018年7月29日、石川県地場産業振興センター)し、日本薬剤師会でテキストの編集・作成にかかわった先生を東京から招いて詳しく説明していただいた。また、トライアル実習を行った薬局の指導者(大学の実務教員を兼ねる)にもお話をいただいた。受講者は、新方式の実務実習にかなり理解が進んだようである。

受入れ薬局になろう

 実習カリキュラムが変更になっても、薬局薬剤師の通常業務が変わる訳ではないので、学生を受入れる状況は今まで通りである。ただ、これまでの“見せて教える”から“やらせて教える”の体験型実習が要求されており、早期に学生を患者や来局者の前に立たせることになり、指導薬剤師として一段と工夫や配慮が必要になる。在宅訪問や地域・多職種連携事業等へも積極的に参加させることも必要である。認定実務実習指導薬剤師の資格を持つ薬剤師ばかりでなく、薬局スタッフ全員が指導に当たらなければならない。
 実習スケジュール(計画書)の作成や概略評価の方法が分からないといったとまどいを訴える指導者がいる。実習スケジュールは、「指導の手引き2018年版」に例示されている。概略評価の実習項目のまとめやレベル設定(どこまで到達したか)が難しいと思うかもしれないが、大学が提示してくれる。
 概略評価の対象となる実習テーマは、調剤や服薬指導など初日から最終日まで継続するものが多く、一定期間ごとに見極めして、そのつど指導を入れてゆけば、学生はいずれ満足できる評価に達すると思われる。
学生にレポートを提出させて点数をつけるのは“試験”である。表現や内容がおかしければ、赤ペンで真っ赤になるくらい加筆し、意義や結論を実習生と十分話し合ってほしい。再提出させて最良のレポートを作り上げる作業を手助けするのが“指導”である。
 ぜひ、後輩のために指導薬剤師になり、薬局に学生を受け入れてください。自らの職能の向上にもプラスになるものと確信しています。

おわりに

 OBE-薬学教育は、実務実習を含めこれからの新しい時代の薬剤師養成教育である。大学は最も独自性が尊重される教育機関であり、国は薬剤師教育の最終目標(アウトカム)「薬剤師として求められる基本的な資質」(表-1)を示すにとどめている。6年間の教育カリキュラムでさえ“モデル”であり、具体的な実務実習の実施方法は“ガイドライン”、またその概略評価方法は“例示”である。これらを具体化し、どのようにレイアウトして教育するかに大学の真価が問われるとともに、学生を実務実習で受け入れる県薬剤師会・薬局の責務も大きい。薬学の、そして薬剤師のより良い未来に向かって頑張ってゆきましょう。

補足) 別コーナー「薬学教育関係文書」に次の文書をアップしています。
☆ 薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25年12月改訂)
☆ 薬学実務実習に関するガイドライン(平成27年2月)
☆ 薬学実務実習の概略評価の例示について(平成29年11月)








薬学教育モデル・コアカリキュラムが改訂される
〜 学習成果基盤型教育(Outcome-based Education)を指向 〜

薬局実務実習委員会 吉藤 茂行
(石川県薬剤師研修センター)

 平成26年6月1日に日本薬剤師会(東京)で、「平成26年度日本薬剤師会薬局実務実習担当者全国会議〜薬学教育モデル・コアカリキュラムの改訂について〜」が実施された。その報告を兼ね、平成25年12月25日に改訂された薬学教育モデル・コアカリキュラムの概要についてお話しします。

平成30年以降を見据えた改訂

 平成18年より始まった薬学教育6年制がようやく定着してきたが、その教育課程であるコアカリキュラムは平成16年以前に決定されたもので、当時はまず4年制から6年制への移行という大きな制度改革の実施に重点が置かれ、カリキュラムの内容に従来型教育の踏襲が見られた。それから10年を経過したが、この間に本格的な薬学教育を模索し立案する動きが見られ、昨年12月25日にコアカリキュラムが改訂された。
 今回は、現在の医療に対応するカリキュラムではなく、改訂実施後の新しい卒業生が世に出る平成33年以降の我が国の社会予測や、医薬品をはじめとする薬学や周辺医療における国の将来計画など、薬剤師の立ち位置を見定めた未来志向型のカリキュラムを目指したものといわれる。

本格的な薬剤師教育

 改訂カリキュラムの構成は、薬剤師養成を第一義とする新しい教育理論に基づいている。現在のカリキュラムも施行時点では薬剤師教育を指向したといわれていたが、1949年の新制大学の 設置から長期に続いた4年制薬学のしがらみを抜け出ることはできず、教養科目など基礎教育から積み上げ、応用科目として薬剤師教育を実施するといった“基礎から応用へ”の理論構成である。
 今回の改訂はこれとは逆に、先ず“これからの薬剤師はどうあるべきか(薬剤師の基本的資質)”を決定し,それに直接必要な教育科目を決めることからはじめ、ついでこの教育を支える二次教育は何かを考えて決定する。さらに二次教育を支えるための基礎教育は何かを考え決定するというプロセスを経て作り上げられたもので、今までの言い方をすれば、“応用から基礎へ”の方向でカリキュラムが編成された。これに基づく教育を学習成果基盤型教育(Outcome-based Education)という。よってこの図式のトップに位置するのは薬剤師であり、これからの6年制教育はまさしく“薬剤師教育”といえる。初学年を担当する教員をはじめ、すべての薬学教員は常に卒業時目標である薬剤師を見据えながら教え、学生も6年間の学習成果として薬剤師になる意志を遂行する。なお、この教育方法は既に我が国の医学教育で実施されている。



学習成果基盤型教育

薬剤師に求められる基本的資質

  • ☆ 薬剤師としての心構え
  • ☆ 患者・生活者本位の視点
  • ☆ コミュニケーション能力
  • ☆ チーム医療への参画
  • ☆ 基礎的な科学力
  • ☆ 薬物療法における実践的能力
  • ☆ 地域の保健・医療における実践的能力
  • ☆ 研究能力
  • ☆ 自己研鑽
  • ☆ 教育能力

スリム化されたカリキュラム

 現行カリキュラムによる教育は、従来の4年制で行われていた講座ごとの講義の連結で積み上げられている傾向があり、実際に多くの大学は講座と講義を一致させている。そのため、教育の流れとして重複や欠落があってスムーズでないといわれている。このことは、薬学教育と実務実習教育,さらには病院実習と薬局実習を別個のカリキュラムにしたことにも表れている。
 今回の改訂ではカリキュラムを一本化し、学習成果基盤型教育に基づいて上流(薬剤師)から下流(薬学基礎)へとスムーズな流れになるように途中域の教育体系を整理したため、スリム化している。それは個々の教育項目の到達目標であるSBOsの総数が1,504から1,068へと大幅に減少したことからわかる。
 カリキュラムがスリム化し学生の学習に余裕ができたことは望ましい方向であるが、“ゆとり教育”になったわけではない。文科省は、空いた時間を各大学の特色ある教育にあてることを要望している。大学には、下流域(薬学基礎)の幅を広げて豊かな人間性を育む科目を用意したり、薬剤師への専門性を高めたアドバンスト教育や卒論研究の充実を図ることが要求されている。

改定カリキュラム   現行カリキュラム
A 基礎事項 67 A 全学年を通して
ヒューマニズムについて学ぶ
38
B 薬学と社会 48 B イントロダクション 22
C 薬学基礎 368 C 薬学専門教育 1,113
D 衛生薬学 79    
E 医療薬学 317   D1 実務実習事前教育
D2 病院実務実習
D3 薬局実務実習
77
108
114
F 臨床薬学 176
G 薬学研究 13 E 卒業実習教育 32
合計SBOs 1,068   合計SBOs 1,504

実務実習教育の重要性

 学習成果基盤型教育の目標である薬剤師に必要な知識・技能・態度を実践的に身につける教育として実務実習教育の重要性がこれまで以上に強調されている。
 現在のカリキュラムは、薬学教育モデル・コアカリキュラムと実務実習モデル・コアカリキュラムが個々に作られており、教育構成の上からも実習教育は薬学教育に付随するものとされた感が否めない。
 新しいカリキュラムでの実務実習は、上記に述べたように薬剤師になるための直接的な教育としてとらえられており、統一されたカリキュラムの中の「F 臨床薬学」を与えられている。臨床薬学の内容は現在以上に体験型実習を指向しており、これまでの見学実習や座学による代替で済ましていたSBOsなどが、積極的に“体験する”と記述されている。
 さらに、我が国の将来を見据えた在宅医療をはじめ地域医療に積極的に取り組むことが要求されている。医療連携による他業種との共同意識の醸成も実習生が身につけるべきテーマとなっている。健康日本の方針から、実習生にセルフメディケーションの考えを理解させ、一般用医薬品の知識や取り扱い(顧客対応)をしっかり習熟させてしてほしいと薬局実務実習担当者全国会議で強く要請された。
 6月下旬に行われた医療薬学フォーラム2014(医療薬学会、東京)で、薬局薬剤師による臨床研究の重要性が話題にされた。「学生発表会(実習報告会)」などを通して、学生に研究し発表する力を培う指導をしている薬剤師も自ら臨床研究し、学会発表することが大切である。学生に、自分の“背中を見せる”ことこそ真の実習教育であろう。


今後のスケジュール
平成27年   現カリ2年次   改カリ1年次
28年   3年次   2年次
29年   4年次   3年次
30年   5年次(実習)   4年次
31年   6年次   5年次(実習)
32年   卒 業   6年次
33年       卒 業

おわりに

 改訂カリキュラムは平成27年4月から実施され、実務実習教育は平成31年度以降になる。県薬剤師会や受入薬局の指導薬剤師が直接携わるのは薬局実務実習であるが、私どもは改訂カリキュラムが意図する教育の流れを理解し、学生とともに“これからの薬剤師”を追い求めてゆかねばならない。

以 上

(本原稿は「県薬レポートNo 71」に記載したものを転記しました)